なめこ農家が営む1日1組限定の農家民宿「季の子工房」で極上イタリアンに舌つづみ
「オーベルジュ」ってご存知ですか?日本オーベルジュ協会によると、「郊外や地方にある宿泊設備を備えたレストラン」のことを指すそうです。
中世フランスが発祥だというこのオーベルジュ、近年日本でも各地に見かけるようになりました。地産地消の食材で提供するお料理はもちろん正統派フレンチに限らないのですが、なんとなく、「ちょっと敷居の高い場所」っていうイメージもあったりします。
そんなオーベルジュを、なんと阿武隈(あぶくま)高地の山あいにある「なめこ」農家が営んでいる??
という情報を、東京在住のグルメな友人から“逆輸入”し、このたび行ってまいりました。それが「季の子工房」さんです。
なめこ農家が営むほのぼのとしたオーベルジュ
入口にはたしかにaubergeの文字が。でも全然敷居の高い雰囲気はありません。下には大きく「民宿」とあります。ここは、45年も続くなめこ農家・武藤さん一家のご自宅1階を改装したイタリアンレストランなのです。お泊りはその2階の客間。だから、オーベルジュでもあり民宿でもあるんですね~
もちろん、泊まらずに食事のみの利用もできますが、筆者は今回、せっかくなので1泊2食(1人6,480円、なめこ収穫体験付き)でお願いしました。
早速その内容をご紹介する前に、ちょっと注意事項を記しておきましょう。武藤さんの本業は、あくまでも農業です。なので、レストラン・宿泊の営業は3日前までの完全予約制。また、必ずしもご希望に添えない場合もあるということなので、ご了承を。
※農家民宿(1泊2食6,480円~/人)1日1組限定、6名まで
では、お邪魔します。
自宅玄関とは別に設えられたエントランスから入ると、ロビーからテラス越しに里山の風景が広がり、遠くに羽山を臨む素敵ビュー。冬なら暖炉に火が入り、ぬくぬくと長居してしまいそうです。
夕食は奥のレストランエリアで。まずは乾いた喉を潤すために、地元のななくさ農園さんが作っている「ななくさビーヤ」で乾杯です。あ~運転して帰らなくていいって、いいなぁ。
メニューはなく、すべてシェフにおまかせのコース料理。色あざやかな前菜は、どれも地元の野菜を使っています。はい、最初から来ましたよ、なめこ。まずは揚げたてアツアツの天ぷらで。
個人的にいちばん感動したのが、二の皿・トウモロコシのスープでした。同伴者がいなければ、皿を舐めていたと思います。目の前の畑から採ったばかりのトウモロコシ、調味はゆで汁とお塩だけ。ほんと、おいしい野菜に余計なものは要らないんですね…
そして看板メニューのなめこピザ。トッピングはもちろん「なめこ」なわけですが、ベースのソースが味噌味ときました。これが意外にチーズとマッチ。これはイケます。そのお味噌も手作りだそうです。
メインのパスタは、茄子とトマトという鉄板コンビ。どちらもいまや1年中買える野菜ですが、やっぱり露地栽培の旬ものがおいしいです。プレゼンテーションもすてき。
デザートのパンナコッタの上には、自家栽培のブルーベリー。それにしても粒が大きいですねえ。大満足でごちそうさま。
お気づきかもしれませんが、この日のコースに肉・魚は一切なし。動物系のブイヨンも全く使わないそうです。と言ってもベジタリアンを謳っているわけではなく、たまに生ハムやひき肉など使うこともあるけれど、自然と野菜が主体になるとのこと。外国人のお客様もいらっしゃるので、厳格なベジやヴィーガン、宗教食のリクエストにも、できる範囲で対応してくれるそうです。
ちなみに、ランチのみ予約の場合も基本的には同じボリューム。すべて地元の旬野菜を使ったおまかせコースですから、違う季節にリピートすればそのたびに違う味が楽しめますね。
この料理を作っているのは?
さて、ここで思い出してみましょう。この「泊まれるレストラン」を営んでいるのは、農家さんです。農家民宿といえば「おかあさんの味」的家庭料理を想像しますが、出てきたお料理はどれも本格イタリアン。これ一体、だれが作ってるの?
ということで、シェフをご紹介します。武藤洋平さんです。奥さまと息子さんも一緒のご家族ショットで。
Uターンして家業に入る前は東京のフレンチレストランで働いていたという洋平さんですが、イタリアンはほぼ独学だとか。本業はガチ農家なのに、このレベルの料理を提供する、農家シェフ。なんか、かっこいいじゃありませんか。実は洋平さん、その名もCool Agriという団体の理事も務めていて、農業をクールでクリエイティブな職業として発信し、次世代の農業者を創出する活動にも携わっています。
予約のうえ季の子工房を訪れた人はもれなく、このcoolな農家シェフから、なめこや野菜、農業の話はもちろん、二本松市の東和地区周辺の魅力なども教えてもらうことができますよ!☺
ちなみに、その東和地区はグリーンツーリズム(農業体験)および農家民宿を絶賛推進中。現在、季の子工房を含む20軒以上の農家が受け入れをしているそうです。ただし、いつでもどの家でも泊まれるわけではないので、道の駅ふくしま東和で情報収集がオススメです。
いざ、なめこ収穫へ!
農家民宿といえば、農業体験も魅力ですよね。季の子工房さんでも、宿泊者は無料でなめこを収穫してお持ち帰りできる!というので、もちろん体験させてもらいました。
東京育ちで土に触ったことがなかった筆者も、福島に移住してコメや野菜の生産現場は多少見慣れてきたつもりでしたが、なめこは初めて。レストランの向いにある栽培施設は意外に小さな印象です。
中に入ると、ぎっしり並んだ菌床のポットからモクモクとなめこが……。これ、生で見るとけっこう圧巻です。室内は1年中同じ気温(約14度)に保たれ、通年で収穫が可能になっているそうです。
では、いざ収穫!と意気込んで武藤さんの指導を受けると、あら、思ったより簡単です。ポットの口の周囲に指を添えて、キノコ部分全体をカポっと真上に引き上げるだけ。
2ポット収穫したら、ラップをかけてお持ち帰り用パックの出来上がりです。
ちなみに、この状態のなめこにはヌメリがありません。スーパーで売っている袋入りなめこがヌメっているのは、水洗いして選別しているから。持ち帰り後、筆者はさっそく炒めてバター醤油でおいしくいただきました。
まとめ
1日1組限定、予約した人のためだけに地産地消の旬野菜で作られるイタリアン・ディナー。運転を気にせずお酒とともに楽しめるのは、「泊まれるレストラン」だからこそ。そして、いただいた食材の生産現場を体験できるのは、農家民宿だからこそ。そんな贅沢なコンビネーションで、気取らないけどとても豊かな時間が過ごせる季の子工房さんでした。
東和季の子工房福島県二本松市太田一本松7
0243-46-2166
おまけ
お泊りに欠かせないのはお風呂ですね。季の子工房では武藤家の薪焚き風呂を使わせてもらうこともできますが、今回は、筆者が以前から気になっていた名目津(なめつ)温泉という日帰り温泉へ、チェックイン前に寄ってみました。
季の子工房からは車で15分ほど。渓流の傍らにポツンと1軒佇む名目津温泉は、それほど山奥ではないものの、自ら「秘湯」と名乗るだけあって、まわりに何もないところが穴場感満載です。
露天風呂はありませんが、外の緑が窓一杯に広がります。紅葉の時期はさぞやきれいなことでしょう。かけ流しのお湯は43~44度とちょっと熱め。窓を開けて風を入れながらゆっくり浸かれば、筆者のような冷え症でも湯冷め知らず。湯上りのお休み処は畳の香りも清々しく、また来たいと思う名湯でした。
名目津温泉福島県二本松市茂原字湯ノ作35番地
大人1回500円(2時間以内)、1,000円(1日)
午前10時~午後8時
0243-24-1126